若者の心理をつく“マルチのカリスマ”らの巧妙手口(産経新聞)

【衝撃事件の核心】

 「ネット上に仮想都市ポータルサイトを立ち上げる」。そんな言葉を呼び水に、若者ら約1900人から約7億1千万円を集めた「ライブリー」(解散、大阪市)によるねずみ講事件で、無限連鎖講防止法違反容疑で同社幹部4人が京都府警に逮捕、うち3人が起訴された。古くは「天下一家の会」、最近では関西の学生を中心に被害者を出した「アースウォーカー」が摘発されるなど、ねずみ講は昔からある典型的なだましの手口だが、被害者はあとを絶たない。「楽してお金が手に入る」という甘い言葉に乗せられ、いつの間にか自らも加害者となり、最終的には人間関係までもが破綻(はたん)する−。ねずみ講の被害者が失うものは、想像以上に大きい。

 ■「寝ててもお金が入る」

 今年1月、京都市内で開かれたライブリー被害者説明会。集まった20人ほどの若者は、被害金を取り戻すための訴訟提起に向け、弁護士の説明を真剣に聞いていた。

 関西の20歳代の女性は3年ほど前、友人に誘われ約40万円を支払って会員になった。「借金があって、少しでも早く完済したかった。仕事も忙しかったので、『寝ててもお金が入る』という誘いになびいてしまった」。ねずみ講という言葉は知っていたが、まさか自分がその渦中にいるとは想像もしなかったという。

 ライブリーは、ネット上に「マトリックスシティ」という仮想都市ポータルサイトを立ち上げ、完成すればその中で買い物ができたり、広告収入が得られるなどと説明していた。近未来風の街中にビルが立ち並ぶ派手なイメージ映像も制作し、「未知の未来都市 MX−CITYのオーナーになりませんか」「インターネットビジネスの可能性を追求」と射幸心をあおった。

 女性は勧誘されたとき、マトリックスシティの画像の一部を見せられた。「3Dの仮想都市の中で人(アバター)が動いていたりして、すごい発想だなと可能性を感じてしまった」。だが、サイトがオープンすると説明された平成20年4月になっても全く音沙汰(さた)がなく、ようやくだまされたことに気づいたという。

 ■若者の心理面をついた手口

 被害対策弁護団の弁護士はライブリーの手口の特徴について「IT系企業を標榜(ひょうぼう)したねずみ講は、携帯やインターネットを利用する若者にとって、とっつきやすい。うまく心理面をついた手口だ」と指摘する。

 実際に被害者は関西の学生や社会人になったばかりの若者が中心で、資力に乏しい人も少なくなかった。なかには、消費者金融に借金してまで金をつぎこんだ会員もいた。

 京都府警によると、同社はサイトを使うための携帯端末機(PDA)と顧客管理ソフト、登録料名目の約40万円を支払って会員になり、新しい加入者を登録させればコミッション(報酬)が入ると説明。しかし、実際にはサイトに運営の実態はなく、PDAも3〜5万円程度で、顧客管理ソフトも金額に見合うような商品ではなかった。こうした実態から京都府警は、サイトの実現性は乏しく、端末機などの商品も合法のマルチ商法を装うための見せかけの道具に過ぎないと判断し、同社元会長の城間勝行被告(37)らの逮捕に踏み切った。

 その後の捜査で「仮想都市」の制作にあてられた金は、わずか200万円程度だったことも判明。捜査幹部は、「こんな大がかりなポータルサイトを本当に作ろうと思ったら、ものすごい資金がいる。そもそももうかる態勢にもなっていない」と実態を話した。

 女性は、勧誘を受けたときの心境を「悩んで悩んでという感じ。40万円近いお金は大金ですし」と話し、迷いに迷った末の決断だったことを明かした。最終的に彼女の背中を押したものは何だったのか。「当時は借金があって仕事もうまくいかなくて、こんな生活、という気持ちだったから…。自分に自信がなくて、現状を変えるためには何か行動を起こさないといけないと思った」

 そんな時に出会ったライブリーの幹部は、自信に満ちあふれてみえた。「目力がすごかった。プライドを持ってこの仕事をしているんだって感じがして、いつの間にかひきつけられていた」。この人とかかわることで自分も成長できるんじゃないか、プラス思考になれるんじゃないか。そう錯覚し、最終的には契約してしまったという。

 ■マルチのカリスマ

 一方で逮捕された幹部は「ねずみ講じゃない」と事も無げに言い放っていた。

 元社長の柏木文男被告(47)は逮捕前、「マルチ商法であって、ねずみ講じゃないよ」ときっぱりと疑惑を否定し、消費生活センターに駆け込んだ会員がいることを指摘すると、「連鎖販売取引(マルチ商法)では当たり前によくあること」。

 ライブリーでの自分の仕事については、「おれはただの雇われ。たまに、パソコンのうしろから『こんなんやで』って言われてのぞく程度。何でも屋、雑用だよ」と話し、以前は別の組織でマルチ商法を10年ほどやっており「月収250万ぐらいあったときもある」と豪語していた。

 被害者1900人の頂点にいたとされるのは、勧誘などの実務を主導していた前田壮一被告(33)。前田被告は「マルチのカリスマ」と呼ばれ、約2年間で手に入れた報酬は、約3千万円にのぼっていたという。

 弁護士によると、こうしたねずみ講の業者は、悪評が立つ前に姿を消し、ほとぼりが冷めたころを見計らって、今度は名前を変えて同じことを繰り返す傾向にあるという。

 件の被害女性は、数人を勧誘したが全員に断られた。「断ってもらって本当によかった。ねずみ講は人の気持ちを踏みにじる犯罪。1900人も同じ目にあった人がいるかと思うと、本当にやるせない気持ちになる」

 最後に、自分を誘った友人をどう思っているのかと尋ねてみた。「顔も見たくない。知ってか知らずか、結局ねずみ講に引き入れてしまったのだから、一言ぐらい謝ってほしかった」とつぶやいた。

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